インタビュー企画「この人に聴く・このヒトを識る」:仲 真紀子 氏



 第1回目は、法と心理学会の理事長でもある仲真紀子氏が応じてくださいました。インタビュアーは若手ホープである中田友貴会員と斧原藍会員です。女性研究者としてのご苦労や子育てのヒントなどにつきお話いただきました。

 仲 真紀子(立命館大学総合心理学部教授・北海道大学名誉教授)
 専門は法と心理学、認知心理学、発達心理学
 1984年お茶の水女子大学大学院博士課程人間文化研究科修了(1987年学術博士)。お茶の水女子大学助手、千葉大学講師・助教授、東京都立大学助教授、北海道大学教授を経て現在に至る。専門は「司法面接」(児童虐待等の被害の疑いのある子どもから、できるだけ正確な情報を、できるだけ負担をかけることなく聴取することを目指す面接法)。法と心理学会理事長。

 斧原 藍(立命館大学R-GIRO)
 2014年関西大学大学院心理学研究科修了。2015年臨床心理士資格取得。関西医科大学精神神経科に非常勤で3年間務める。現在は、関西大学心理臨床センター、大阪市内にある児童養護施設、奈良県にある中学校にて、カウンセリング業務を行っている。また、週に一度、自立訓練(生活訓練)の事業所にて、ソーシャルスキルトレーニングなど含めたグループワークを担当している。関心のある心理療法はPerson-Centered Therapy。加えてトラウマケアについても勉強中。

 中田 友貴(立命館大学文学研究科博士後期課程3年/日本学術振興会特別研究員)
 専門は法と心理学、社会心理学、心理学史
 2015年立命館大学大学院文学研究科終了。2015年より立命館大学大学院文学研究科博士課程に在籍し、2016年より日本学術振興会特別研究員(DC2)。科学的・客観的証拠(特に取調べ録画映像やCCTVなどの映像証拠)が裁判員の司法判断に与える影響について専門とし、研究活動に励んでいる。



―― 本日は、“研究と家庭の両立”や“困難な状況に直面した際の乗り越え方”などを伺っていきたいと思っています。どうぞよろしくお願いします。
  よろしくお願いします。

―― さっそくですが、仲先生にとって、女性が社会で活躍していく上での、難しさと面白さとは何でしょうか。
  こういうとこが難しいだろうとか、こういうとこが面白いだろうと思ってやってきたわけではなく、無我夢中で、「今日のこと、今日のこと」という風に目の前のことをやってきました。そしたら今に至ったみたいな感じです。
 振り返ってみて思うのは、仕事で行き詰まったら家族もいるし、家族が大変となったら仕事も面白いし、というので、2つ世界があったのは本当に良かったと思います。
 ただ、時間がないというのはいつもあって、そんな中で思っていたことが2つあります。一つはプライオリティを決めて、100パーセントは無理なので4割ぐらいにする。「しょうがない」という風にそこは思うことにします。もう一つは、例えばジムとか英会話とか、普通ならいろいろ工夫して時間を取ってやると思うんだけど、それを「急ぐときに走ったりするのは運動」と思う、「授業の準備のために論文を読むとかいったら、これはもう英語の練習だ」とか思って、ダブルで全部兼ねる、みたいな。そういうことで、工夫ができる分、面白いかな、と思います。
 しんどいところは忘れてしまうんです。子育ての時に、双子の子どもと私で「もう無理じゃー」と3人でワーワー泣いていたこともあった。子ども2人が泣き出して、しょうがないから手を繋いで、私もボロボロになって歩いていたら、通りすがりの人に『お母さん、スパルタ教育は駄目なのよ』と言われたことがあって。「スパルタでやっているわけじゃないんだよ〜」と悔しい思いをしたこともあった。
 そういうのを、ちょっとは覚えてはいるんだけど、でも本当に大変な時というのは、それらを記録する時間もなく、記録がないからもう忘れてしまうみたいなことはあるかと思います。

―― 仲先生は学生結婚をされたと伺っています。実は僕(中田)もこの前、学生結婚をしたんですが、僕もパートナーも研究と家庭を両立する難しさを実感しています。先生は難しさを感じることはなかったですか?
  ご結婚おめでとうございます。本当に結婚し始めのときは大変ですね。私たちも結婚当初は6畳一間のアパートみたいなところに住んでいたんですけど、例えばカーペットを敷く位置ですごい大げんかをしたり、怒鳴って「出ていく」とか「結婚解消じゃ」とか言ったりして。毎日何かのけんかを繰り返してました。ヒステリックになったりもして、今思うと、ひどかった。
 あとは、周囲との付き合いというのもなかなか大変でした。私が女性だからというのもあると思うし、全然悪気はないと思うんだけど、年配の方から「真紀子さんも、お勉強はこれぐらいにして」と言われたことがあって。結構頑張っているのに、「お勉強ってなー」「そう言うかなあ」などと思ったりすることもありました。
 そういう意味では、社会全体にどこか、「女性はやっぱり家庭で子育て」というのがあるので、結婚して奥さんという役割を一つもらうと、そういうプレッシャーがあるんだというのを感じるようになる。(中田さんの)パートナーさんについても、そこを支えていくのは本当に大変ですね。
 
―― 僕自身、結婚してから制約みたいなものをひしひしと感じます。「大黒柱であれ」みたいな。
  そうね。うちの旦那が、博士に進もうと思っていたんだけど、結局修士で辞めて、就職したのね。そのときは、就職の口がたまたまあったというのもあったんだけど、でも流れで考えると「男性が稼がなければ」というような気持ちを旦那が持ってしまったのかなと思う。結局あとで、大学に戻って、博士号は取ったんだけどね。だけど、いったんはともかく修士で社会に出た。 

―― ジェンダーの問題がある、と。
  女性が、本当は上に行きたいのに、これをしたいのに、「女性だから駄目」というような力が加わるのはもったいないし、良くないことですね。男性でも同じこと。そういう意味では、できるだけ敏感に、(その人の気持ちに)気付く必要がある。
 でも、どんな気持ちだったかというのは、後になるまでは分からないことも多い。私も旦那がなんで修士で終えて就職してしまったのかというようなことを、当時は「修士で辞めるんだ」ぐらいに思っていたから。同じことは女性にも言えて、「旦那を立てて、自分は修士で終わります」とかいうのもあると思う。そこは本当に対話が必要ですね。その人がどういうふうに思っているのかと。現時点だけでは分からないかもしれないから、みんなから広く話を集めて、方針を考えていく必要があると思いますね。
 現在も、女性の研究者というのはすごく少ない。大学の教員を見ても、入り口の学生のところは男女半々でも、教授職とかになっていくと女性の割合はすごく減ってしまうので、これはどうしてこうなっているのかというのを解明して、改善していかないといけないと思う。

―― 仲先生はこれまで困難に直面した時、投げ出したり逃げ出したりしたなったことはあるのでしょうか。そんな時は、どのようにご自身を癒やしてきたのか、解消してきたのか教えてください。趣味等がおありなのでしょうか。
  私は趣味がなくて、データを見たり、分析したりするのが好きなのね。どんっとデータが置いてあったりすると、ワクワクするというのがずっとあって。毎日、研究できる!と思うと目が覚める、みたいな。
 でも、嫌になってしまったと思ったのは若い頃にあります。学会で発表したのね。シンポジウムか何かで、あるすごく有能な先生が発表されて、その次が私の発表だった。その方の報告に比べたら、私のは全然駄目という感じで、学会もそのあと出る気持ちもなくなって、美術館に行ったの。そしたら、見ている絵の前で涙がポロポロ流れて、ウワーという感じになったことがあったかな。
 だから評価は悔しいね。落ち込む時は、考えてみれば、論文が通らなくて駄目だったとか、評価されて受け入れられなかったとか、そういう時ね。
 
―― そういうときは、何か特別なことをするというわけでもなく?
  しばらく時間がたって、元気が出てくるまでひたすら待つみたいな感じですね。
やったことに対して「それ、できているの?」と言われるとか、あるいは自分で「できていなかった」と感じる、というのはちょっとつらいかな。でも、それがあるから、今度はもっと頑張ろうと思う。しばらくするとね。そのときはウーっとなるけれどね。

―― 大変な状況に遭遇した際には“環境のコントロール”と“認知変容”を行うと伺ったのですが、一人で自分の認知変容を行うというのは簡単なことではないように思いました。
  私は苦痛に対する耐性というか、閾値が低いんだと思うんです。すぐ「もう、つらい」となってしまうので、そのつらさを逃すことをしないと、「駄目だ」となってしまう。我慢ができにくいのかもしれないです。
 やらないといけないことを、「こんなの嫌だ」とか思いながらやっていると、ますますつらさが倍加してしまうから、それを切り替えようというんですかね。
 つらくなると、しばらくボロボロと泣いたりするんですけど、泣くと結構吐き出せるとこもあるじゃないですか。
 人生の中、「ああ、つらいな」とか、「もう無理じゃ」と思うことはたくさんあるんですけど、でも、夜になれば、朝になって、また次の日が始まるわけじゃない。何とかやってかないといけない、と思うと「とりあえず体を動かすか」みたいな感じになるのかな。あまりにゴチャゴチャ考えていると、気持ちだけでなえてしまうので、いったん思考停止にして、とりあえず「今日やること」「明日やること」って、ちょっと目の前のことだけをやってみる。

―― 仲先生にとっての、心のよりどころみたいなものはあるのでしょうか。
  仕事は面白いので、例えば旦那と大げんかをした、とかがあっても、仕事に逃げる。仕事のことを考えていたら、みんな頭から抜けていくから。仕事でもいいし、趣味でもいいと思うんだけれども、何かコミットできるものがあるといいと思います。
 あと、私はクリスチャンなんです。教会にも行っていないし、言うのもおこがましい感じだけど、「価値は人の世というよりは、神さまのところにある」と思うと、ちょっと気が楽になる。人が何と言っても、「これは人間のことだから」みたいになる。
 教会とかに行くと「天に宝を積む」とか言われるわけなんです。いいことだと思って。自分のところの業績を集めるとかというだけではなくて、「天に宝を積んでいく」という。

―― 大きな視点がある。
  そう。そういうのはいいと思うんです。

―― 人生の岐路に立ったとき、進む方向を決断する基準というのは何かはありますか。
  基準はないんだけど、「何か面白そう」「これは嫌だ」というのはあります。「面白そうなことがあったらやってみたい」とか、「そこからは抜け出したい」とかと思う。
 「これは勇気を出すところだ」という風に思うことは時々あるんです。「やらないで後悔するよりはやって後悔するほうがいい」とかいうじゃないですか。なので、原則それかな、というところでしょうか。見てみないと分からない、と思う。
 論文を書くときも、最初に1行を書くときというのは、新しいことをやるわけだから、ボコボコにいろいろ言われるかもしれない。だからすごい勇気がいるんだけど、「まきちゃん、勇気を出して」と思うんです。「嫌だな、安住したいな」と思うこともあるんだけど、でもここは勇気を出すところだろうと思うことがあるかな。

―― 法と心理学研究では、法学と心理学のコラボレーションが欠かせないと思いますが、他職種や他分野の人たちとコラボレーションする際の、コツや工夫などがあれば教えてください。
  一つは、私の得意分野はこれなんだというのが、分かりやすく提示できるといいと思うんです。「より専門性を」と言うと、相手は理解しにくくなってしまうかもしれないから、できるだけ伝わりやすい形で、「自分の専門性はこれ。こういうことができる」というものを持っているということ。
 もう一つは、相手の方から教わるということ。あるお医者さんの講演を聞いたことをきっかけに、「自分の知らないところを教えてくれる人というのは、みんな、自分にとってのティーチャーなんだ」と、「導いてくれる人なんだ」と思ったんです。
 そう思うと、「心理学ではこうは言わないんだよね」と一瞬は思っても、「むしろこういう考え方があるんじゃー」とかと思う。
 私は、人から嫌われるのが怖いみたいなところがあって、できるだけ紛争にならないように気を付けているというのはあるのね。そこら辺が本当に優柔不断で、自分でも「もうちょっとはっきり言えよ」と思うときもあるんだけど。でも、異を唱えるよりはまずは学べと。だから学ぶ姿勢というのは重要だと思います。

―― 仲先生は今後どのように活動していこうと考えておられますか。
  今やっている、子どもの面接法の研究と、あと実践は、もう少し続けていきたいと思っているんです。あまり言えるほどのことができないかもしれないので、ちょっと細々と…という風に思っているんだけど。続けるのがいいですね。何でもね。

―― 最後に、法と心理に関わらず、若手の研究者や実務家に対して、ひと言ありましたら、ぜひお願いします。
  若手といってもいろんな若手があると思うんだけど、今までのしがらみにとらわれないで。経験を重ねると、どうしてもだんだん自分が蓄積したものに頼っていくし、同じようなことなら次をやるというのも簡単じゃないですか。そういう意味では、「勇気を出す」みたいなのが少なくて済んでくるということがあると思うんです。
 でも若手というのは、まだまだ先があるからこそ、新しいことができる。脳もきっと柔らかいと思うので。学術と実践のつながりというものを拡張していっていただけるといいと思います。
 変なことと思ってもやってみるのがいいと思います。人に何と言われても、気にしないでやるのがいいかもしれないね。

―― 今日は本当にありがとうございました。
  本当にどうもありがとうございました。



インタビュー後記:
  • タメ口で言いたいことばかり言い放ってしまいごめんなさい。楽しい時間をくださり、どうもありがとうございました。(仲)

  • 研究に真正面から向き合っている姿勢や、優しいお人柄に、心打たれました。貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。(斧原)

  • 普段あまり聞くことのない、研究者の“生活”をお聞きでき、自分はどうやって両立させていくのか考える機会となりました。お忙しい中、お話を聞かせていただき、ありがとうございました。(中田)


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