日 時: 2014年10月18日(土) 午後1時20分~午後5時
場 所: 京都産業大学 神山ホール
第一部:基調講演
Bonita M. Veysey, Ph.D.(ラトガーズ大学)
タイトル
非行・犯罪 からの離脱(desistance)、異なるアイデンティティー(identity)への変容の プロセス:将来有望 な新たな方向性とは
講演要旨
毎年100万人を超える人が刑務所から地域社会に戻る米国にとって、犯罪からの離 脱は とても重要な課題となっている。誰が、どのようにして、どんな文脈で(犯罪から離脱するのか)というこ とは、ライフコースを通した離脱研究における実務的な関心を集めている。今日までの研究で、年齢と 犯罪 との関係、離脱との相関、そして離脱のプロセスの中で作用している個人内や対人関係の中でのメカニズム ですら明らかになりつつある。これまでの研究では、アイデンティティーや自己意識(sense of self)がこのプ ロセスの中心になりそうである。
この講演で は、犯罪からの離脱に関して現在までに集積された知見を議論しつつ、黙示的・明 示的なアイデンティティーの(変容)プロセスを理解することが、どのようにしてこの複雑な課題を理解す るにことにつながるのかを探求してみたい。犯罪からの離脱が本質的な部分でまったく異なるタイプの 行動 変容と共通点があるという仮設の下、この講義では、アイデンティティー変容という考え方を、薬物依存症 や精神障がいからの回復(recovery)などの異 なるプロセスに応用してみたい。
第二部:パネル討議
1. 岡邊 健 (山口大学)
近時英米で 注目されている立ち直り研究は、少なくとも犯罪学の文脈においては、1980年代以降に進んだ縦断的デザインによる犯罪経歴研究の成果をふまえた上 で展 開されている。犯罪に関わる人がどれだけいて(participation)、彼らがどんな種類の犯罪を(seriousness)どのくらい繰返し(frequency)それはどの程度持続するのか(career length)――これ らのデータは犯罪の発達・終息の全体像を知るのに必須のはずだが、国内でその蓄 積は乏しい。本報告では、縦断的データに基づいて、立ち直りを含む少年非行のライフコースの態様を素描 してみたい。
2. 飯野 雄治 (リカバリーキャラバン隊、稲城市職員)
精神障害者 の援助目標が治療からリカバリーへと移りつつある。リカバリーとは完治(つまり疾患をなくすこと)した「状 態」を示すものでなく「プロセス」だと定義され、言わば精神疾患とともに充実した 人生を送ることだと換言できよう。本パネルではリカバリー概念やリカバリーを目標とした心理社会的な援 助にヒントを得ながら、犯罪からの立ち直りにおいては過去の犯罪や非行経験等と同居することを標準 的に 想定した上で、むしろそれをチャンスとさえとらえることを試みる。このことで犯罪からの立ち直りの可能 性を理解し、関わり方、立ち会い方について考える機会を提供したいと考える。
3. 津富 宏 (静岡県立大学)
再犯予防という 観点と、離脱促進という観点は異なる。その異同について理解せずに、再犯予防=離脱促進であると勘違い して、政策や研究がすすめられれば、日本の再犯予防はその本来の目的を達成せず、破滅的な結果に至 るで あろう。両者の違いを端的に述べれば、前者は個人単位であるのに対して後者は関係単位、前者は再犯とい うイベントに対象とするのに対して後者は状態を対象とし、そして、前者は犯罪(行動)に着目するの に対 し後者は当事者の主観に着目することにある。