法と心理学会について

設立趣意書

 法に関わる出来事は優れて人間的現象であります。そして心理学は人間的現象の解明を目的とした科学です。その意味で法学にとって心理学的知見はきわめて有用であり、心理学にとっても法という領域は生きた現実の問題を扱う魅力的な分野です。しかし、日本においては今日まで法学と心理学の研究交流は極めて限定的なもので、その関係は必ずしも密接ではありませんでした。私たちは具体的なケースの関わる中で、法学と心理学との隔たりの大きさに驚くと同時に、互いの距離を埋める努力の必要性を強く認識するに至りました。


 諸外国に目を向ければ、法学と心理学とが広範な領域で積極的に研究交流を展開し、組織的な研究基盤も確立されており、社会的な役割を果たしています。日本においても、このような学際的な研究交流と研究活動の組織化は緊急の課題であり、早急に実現する必要があると考えます。ここに法と心理学会を設立する目的があります。


 これまで私たちは、法の現象の中でも特に目撃証言や自白の問題を取り上げ、法学と心理学の観点から、共同研究を重ねてきました。目撃や自白における心理学的メカニズムや分析方法の確立は、今後も私たちの主要なテーマの一つになります。法と心理学会では、これに加えて、法と心理学における基礎的な研究はもとより、少年、障害者、被害者等に関わる問題、犯罪行動に関する問題、民事手続きや行政手続きにおける問題、司法福祉の問題、これらに果たすジャーナリズムの役割などの現実的な諸課題に対しても、精力的に取り組みます。


 法と心理学会はこのような広範な課題に対して、学術集会、学会誌の発行などの活動を通し、法と心理学に携わる研究者や実務家の学術研究交流を促進し、その発展に寄与したいと思います。さらに、その成果を社会に問いかけ、現実的な社会的貢献を果たしたいと考えます。


一瀬敬一郎
(第二東京弁護士会)
厳島行雄
(日本大学)
伊東裕司
(慶應義塾大学)
大橋靖史
(淑徳大学)
岡田悦典
(福島大学)
黒沢香
(千葉大学)
佐藤博史
(第二東京弁護士会)
高木光太郎
(東京学芸大学)
仲真紀子
(東京都立大学)
中川孝博
(大阪経済法科大学)
浜田寿美男
(花園大学)
原聰
(駿河台大学)
三島聡
(大阪市立大学)
村井敏邦
(龍谷大学)
山脇哲子
(東京弁護士会)